かしゅう『わくい』をよむ
歌集『涌井』を読む

冒頭文

わたくしは歌のことはよくわからず、広く読んでいるわけでもないが、岡麓(おかふもと)先生のお作にはかねがね敬服している。誠に滋味の豊かな歌で、くり返して味わうほど味が出てくるように思う。中でも最も敬服する点は、先生が、目立って巧みな言い回しとか、人を驚かせるような奇抜な表現とか、刺激の強い言葉とかを、決して使われないことである。どんなに烈(はげ)しい内容を取り扱われる場合でも、いかにも淡々として、透

文字遣い

新字新仮名

初出

「余情 第十集」1949(昭和24)年6月25日

底本

  • 和辻哲郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年9月18日