『せいきゅうざっき』をよむ
『青丘雑記』を読む

冒頭文

『青丘雑記(せいきゅうざっき)』は安倍能成氏が最近六年間に書いた随筆の集である。朝鮮、満州、シナの風物記と、数人の故人の追憶記及び友人への消息とから成っている。今これをまとめて読んでみると、まず第一に著者の文章の円熟に打たれる。文章の極致は、透明無色なガラスのように、その有を感ぜしめないことである。我々はそれに媒介せられながらその媒介を忘れて直接に表現せられたものを見ることができる。著者の文章は、

文字遣い

新字新仮名

初出

「帝国大学新聞」1933(昭和8)年1月16日

底本

  • 和辻哲郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年9月18日