はいいろのめのおんな |
灰色の眼の女 |
冒頭文
1 埴生十吉が北海道の勤め口を一年たらずでやめて、ふたたび東京へ舞戻つてきたのは、192*と永いあひだ見馴れもし使ひなれもした字ならびが変つて、計算器の帯が二本いちどきに回転するときのやうに、下から二た桁目に新たな3の字がかちりと納つた年の、初夏のことであつた。遊んで暮してゆける身分でもないので、ロシヤ語を少々かじつてゐたのをたよりに、小石川にある或る東洋学関係の図書館に、なかば自宅勤務
文字遣い
新字旧仮名
初出
「思索」1946(昭和21)年10月
底本
- 雪の宿り 神西清小説セレクション
- 港の人
- 2008(平成20)年10月5日