しゅんでい
春泥 『白鳳』第一部

冒頭文

大海人(おおしあま)は今日も朝から猟だつた。午ちかく、どこではぐれたのか伴の者もつれず、一人でふらりと帰つてくると、宮前の橿(かし)の木のしたで赤駒の歩みをとめた。 舎人(とねり)の小黒が、あわてて駈けだしてきて、手綱をおさへる。そして何か言つた。 「ほう、嶋が? 多治比(たじひ)ノ嶋が来てゐるのか?」 大海人は、よくかげ口をきかれる例の神鳴り声を、小黒の禿げ頭のてつぺんへ浴

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新文學」1948(昭和23)年1月号

底本

  • 雪の宿り 神西清小説セレクション
  • 港の人
  • 2008(平成20)年10月5日