せんいのたちば
船医の立場

冒頭文

一 晩春の伊豆半島は、所々(しょしょ)に遅桜(おそざくら)が咲き残り、山懐(やまぶところ)の段々畑に、菜の花が黄色く、夏の近づいたのを示して、日に日に潮が青味を帯びてくる相模灘が縹渺(ひょうびょう)と霞んで、白雲に紛(まぎ)れぬ濃い煙を吐く大島が、水天の際(きわ)に模糊(もこ)として横たわっているのさえ、のどかに見えた。 が、そうした風光のうちを、熱海から伊東へ辿る二人の若い武士は

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日