にせもの
贋物

冒頭文

一 車掌に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないのだ。 耕吉は昨夜の十一時上野発の列車へ乗りこんだのだ、が、奥羽線廻りはその前の九時発のだったのである。あわてて、酔払って、二三の友人から追いたてられるようにして送られてきた彼には、それを訊(たず)ねている余裕もなかったのだ。で結局、今朝の九時に上野を発ってくる奥羽線廻りの青森行を待

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

底本

  • 日本文学全集31 葛西善蔵 嘉村礒多集
  • 集英社
  • 1969(昭和44)年7月12日