しょうえんじょしのおもいで
松園女史の思い出

冒頭文

窓の外で春の形見の鶯が頻りに啼いている。 荻窪の家に住んでいた頃のこと、嫁いだ娘ののこした部屋を第二の書斎にしている私は、今、朝の窓の日ざしに向っている。ふと蓮月尼の「おり立ちて若葉あらへば加茂川の岸のやなぎに鶯のなく」の情景を頭の中で描きながら、三十年前に会った京の松園女史の面影を眼に浮べている。 それは大正二年四、五月の交である。私は京都に遊んで、ひらぎ屋に泊って洛中洛外を

文字遣い

新字新仮名

初出

「京都」1950(昭和25)年9月号

底本

  • 青帛の仙女
  • 同朋舎出版
  • 1996(平成8)年4月5日