ほうおうのきとう
法王の祈祷

冒頭文

香煙と法衣とより離れて、わが殿中の一隅金薄(きんぱく)の脱落(はげお)ちたこの一室に来れば、ずつと気やすく神と語ることが出来る。こゝへ来ては、腕を支へられずに、わが老来(おいらく)を思ふのである。弥撒(ミサ)を行ふ間は、わが心自づと強く、身も緊(しま)つて、尊い葡萄酒の輝(かゞやき)は眼に満ちわたり、聖なる御油(みあぶら)に思も潤ふが、このわが廊堂の人げない処へ来ると、此世の疲(つかれ)に崩折(く

文字遣い

新字旧仮名

初出

「藝文 第六年第一号」1915(大正4)年1月

底本

  • 定本 上田敏全集 第一巻
  • 教育出版センター
  • 1978(昭和53)年7月25日