らんがくことはじめ
蘭学事始

冒頭文

一 杉田玄白が、新大橋の中邸を出て、本石町三丁目の長崎屋源右衛門方へ着いたのは、巳刻(みのこく)を少し回ったばかりだった。 が、顔馴染みの番頭に案内されて、通辞、西善三郎の部屋へ通って見ると、昨日と同じように、良沢はもうとっくに来たと見え、悠然と座り込んでいた。 玄白は、善三郎に挨拶を済すと、良沢の方を振り向きながら、 「お早う! 昨日は、失礼いたし申した」と、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日