しぶたみむらより
渋民村より

冒頭文

一 杜陵(とりやう)を北へ僅かに五里のこの里、人は一日の間に往復致し候へど、春の歩みは年々一週が程を要し候。御地は早や南の枝に大和心(やまとごころ)綻(ほこ)ろび初め候ふの由、満城桜雲(あううん)の日も近かるべくと羨やみ上げ候。こゝは梅桜(ばいあう)の蕾未(いま)だ我瞳よりも小さく候へど、さすがに春風の小車(をぐるま)道を忘れず廻り来て、春告鳥(うぐひす)、雲雀(ひばり)などの讃歌、野に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「岩手日報」1904(明治37)年4月28日~5月1日

底本

  • 石川啄木全集第四巻 評論・感想
  • 筑摩書房
  • 1980(昭和55)年3月10日