おちてゆくせかい
落ちてゆく世界

冒頭文

ある日—— 足音をしのばせて私は玄関から自分の居間にはいり、いそいで洋服をきかえると父の寐ている部屋の襖をあけました。うすぐらいスタンドのあかりを枕許によせつけて、父はそこに喘いでおります。持病の喘息が、今日のような、じめじめした日には必ずおこるのです。秋になったというのに、今年はからりと晴れた日はまだ一日もなく、なんだか、あついような、そして肌寒い毎日でありました。 「唯今かえり

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久坂葉子作品集 女
  • 六興出版
  • 1978(昭和53)年12月31日