一 『矢筈草(やはずぐさ)』と題しておもひ出(いづ)るままにおのが身の古疵(ふるきず)かたり出(い)でて筆とる家業(なりわい)の責(せめ)ふさがばや。 二 さる頃も或人の戯(たわむれ)にわれを捉へて詰(なじ)りたまひけるは今の世に小説家といふものほど仕合(しあわ)せなるはなし。昼の日中(ひなか)も誰(たれ)憚(はばか)るおそれもなく茶屋小屋(ちゃやこや)に出入りして女に戯れ遊ぶこと、これのみにて