むこうじま
向島

冒頭文

隅田川(すみだがわ)の水はいよいよ濁りいよいよ悪臭をさえ放つようになってしまったので、その後わたくしは一度も河船には乗らないようになったが、思い返すとこの河水も明治大正の頃には奇麗(きれい)であった。 その頃、両国(りょうごく)の川下(かわしも)には葭簀張(よしずばり)の水練場(すいれんば)が四、五軒も並んでいて、夕方近くには柳橋(やなぎばし)あたりの芸者が泳ぎに来たくらいで、かなり賑(

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年9月16日