みずのながれ
水のながれ

冒頭文

戦争後、市川の町はずれに卜居(ぼくきょ)したことから、以前麻布(あざぶ)に住んでいた頃よりも東京へ出るたびたび隅田川(すみだがわ)の流れを越して浅草の町々を行過る折が多くなったので、おのずと忘れられたその時々の思出を繰返して見る日もまた少くないようになった。 隅田川両岸の眺めがむかしとは全然変ってしまったのは、大正十二年九月震災の火で東京の市街が焼払われてから後(のち)の事で、それまでは

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年9月16日