なつのまち
夏の町

冒頭文

一 枇杷(びわ)の実は熟して百合(ゆり)の花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込(うえごみ)の蔭には、七度(たたたび)も色を変えるという盛りの長い紫陽花(あじさい)の花さえ早や萎(しお)れてしまった。梅雨(つゆ)が過ぎて盆芝居(ぼんしばい)の興行も千秋楽(せんしゅうらく)に近づくと誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。そして炎暑の明(あかる)い寂寞(せきばく)が都会を占領する。 しかし自分は

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年9月16日