とじょう |
途上 |
冒頭文
六里の山道を歩きながら、いくら歩いても渚(なぎさ)の尽きない細長い池が、赤い肌(はだ)の老松の林つゞきの中から見え隠れする途上、梢(こずゑ)の高い歌ひ声を聞いたりして、日暮れ時分に父と私とはY町に着いた。其(その)晩は場末の安宿に泊り翌日父は私をY中学の入学式につれて行き、そして我子を寄宿舎に托(たく)して置くと、直(す)ぐ村へ帰つて行つた。別(わか)れ際(ぎは)に父は、舎費を三ヶ月分納めたので、
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1932(昭和7)年2月
底本
- 現代日本文學大系 49
- 筑摩書房
- 1973(昭和48)年2月5日