一 庭の山茶花(さざんか)も散りかけた頃である。震災後家を挙げて阪地に去られた小山内(おさない)君がぷらとん社の主人を伴い、倶(とも)に上京してわたしの家を訪(おとな)われた。両君の来意は近年徒(いたずら)に拙(せつ)を養うにのみ力(つと)めているわたしを激励して、小説に筆を執らしめんとするにあったらしい。 わたしは古机のひきだしに久しく二、三の草稿を蔵していた。しかしいずれも凡作見るに堪(