ちまたのこえ
巷の声

冒頭文

日々門巷を過る物売の声もおのずから時勢の推移を語っている。 下駄の歯入屋は鞭を携えて鼓を打つ。この響は久しく耳に馴れてしまったので、記憶は早くも模糊として其起源のいつごろであったかを詳にしない。明治四十一年の秋、わたくしが外国から帰って来た時、歯入屋は既に鞭で鼓を打ちながら牛込辺を歩いていたようである。 その頃ロシヤのパンパンと呼んで山の手の町を売り歩く行賈の声がわたくしには耳

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日和下駄 一名 東京散策記
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年10月10日