しょうたく
妾宅

冒頭文

一 どうしても心から満足して世間一般の趨勢に伴(ともな)って行くことが出来ないと知ったその日から、彼はとある堀割のほとりなる妾宅(しょうたく)にのみ、一人倦(う)みがちなる空想の日を送る事が多くなった。今の世の中には面白い事がなくなったというばかりならまだしもの事、見たくでもない物の限りを見せつけられるのに堪(た)えられなくなったからである。進んでそれらのものを打壊そうとするよりもむしろ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年11月17日