かねのこえ
鐘の声

冒頭文

住みふるした麻布(あざぶ)の家(いえ)の二階には、どうかすると、鐘の声の聞えてくることがある。 鐘の声は遠過ぎもせず、また近すぎもしない。何か物を考えている時でもそのために妨げ乱されるようなことはない。そのまま考に沈みながら、静に聴いていられる音色(ねいろ)である。また何事をも考えず、つかれてぼんやりしている時には、それがためになお更ぼんやり、夢でも見ているような心持になる。西洋の詩にい

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年9月16日