かつしかみやげ
葛飾土産

冒頭文

○ 菅野(すがの)に移り住んでわたくしは早くも二度目の春に逢おうとしている。わたくしは今心待ちに梅の蕾(つぼみ)の綻(ほころ)びるのを待っているのだ。 去年の春、初めて人家の庭、また農家の垣に梅花の咲いているのを見て喜んだのは、わたくしの身に取っては全く予想の外にあったが故である。戦災の後、東京からさして遠くもない市川の町の附近に、むかしの向嶋(むこうじま)を思出させるような好風景

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年9月16日