いっせき
一夕

冒頭文

一 小説家二、三人打寄りて四方山(よもやま)の話したりし時一人(いちにん)のいひけるはおよそ芸術を業とするものの中(うち)にて我国当世の小説家ほど気の毒なるはなし。それもなまじ西洋文学なぞうかがひて新しきを売物にせしものこそ哀れは露のひぬ間(ま)の朝顔、路ばたの槿(むくげ)の花にもまさりたれ。もし画家たりとせんか梅花(ばいか)を描きて一度(ひとたび)名を得んには終生唯梅花をのみ描くも更に飽かるる虞

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 荷風随筆集(下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年11月17日