はっこうじょのにわき
発行所の庭木

冒頭文

発行所の庭には先づ一本の棕梠(しゆろ)の木がある。春になつて粟粒を固めた袋のやうな花の簇出(そうしゆつ)したのを見て驚いたのは、もう五六年も前の事である。それ迄棕梠の花といふものは、私は見た事がなかつたのである。見た事はあつても心に留まらなかつたのである。それがこの家に移り住むやうになつて新しく毎日見る棕梠の梢から、黄いろい若干の袋が日に増し大きくなつて来るのを見て始めて棕梠の花といふものを知つた

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 近代浪漫派文庫 7 正岡子規 高浜虚子
  • 新学社
  • 2006(平成18)年9月11日第1刷