つばきこものがたり
椿子物語

冒頭文

上 私は鎌倉の俳小屋の椅子に腰をかけて庭を眺めてゐた。 俳小屋といふのは私の書斎の名前である。もとは子供の部屋であつて、小諸に疎開して居る時分は物置になつてゐて、ろくに掃除もせず、乱雑に物を置いたまゝになつてゐた。三年越しに小諸から帰つて来た時に、そこを片附けて机を置いて仮りの書斎とした。積んであるものは俳書ばかりで、それが乱雑に置いてあり、その他には俳句に関する反古が又山と積み重ねてある。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」中央公論社、1951(昭和26)年6月

底本

  • 近代浪漫派文庫 7 正岡子規 高浜虚子
  • 新学社
  • 2006(平成18)年9月11日