しおひがり
潮干狩

冒頭文

前の晩、雄二は母と一緒に風呂桶につかつてゐると、白い湯気の立昇るお湯の面に、柱のランプの火影が揺れて、ふとK橋のことを思ひ出した。恰度、夜の橋の上から両岸の火影が水に映つてゐるのを眺めてゐるやうな気持だつた。明日は父に連れられて、皆で潮干狩に行くのだつた。雄二はまだ船で川を下つたことはなかつた。床に這入つてからも、なかなか睡れなかつた。寝床がそのまま船になつて、闇のなかを進んで行く。だ、だ、だ、だ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸汎論」1939(昭和14)年 9月号

底本

  • 定本原民喜全集 I
  • 青土社
  • 1978(昭和53)年8月1日