からさわのいわごやのあるよのこと
涸沢の岩小屋のある夜のこと

冒頭文

自分たちの仲間では、この涸沢(からさわ)の岩小屋(いわこや)が大好きだった。こんなに高くて気持のいい場所は、あんまりほかにはないようだ。大きな上の平らな岩の下を少しばかり掘って、前に岩っかけを積み重ねて囲(かこ)んだだけの岩穴で、それには少しもわざわざやったという細工の痕(あと)がないのがなにより自然で、岩小屋の名前とあっていて気持がいい。そのぐるりは、まあ日本ではいちばんすごく、そしていい岩山だ

文字遣い

新字新仮名

初出

「登高行 第五年」1924(大正13)年12月

底本

  • 山の旅 大正・昭和篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年11月14日