ゆきのたけしとうげ
雪の武石峠

冒頭文

信濃町から 一時間たつかたたぬに、もう大晦日(おおみそか)という冬の夜ふけの停車場、金剛杖(こんごうづえ)に草鞋(わらじ)ばきの私たちを、登山客よと認めて、学生生活をすましたばかりの青年紳士が、M君に何かと話しかける。「はじめて武石峠へゆくのです」とのM君の答に、青年紳士は、自分の経験からいろいろ注意をして下された。「武石峠は今零度ほどの寒さでしょう。松本で真綿を買って、頸(くび)に捲(ま)

文字遣い

新字新仮名

初出

「山岳 十の一」1915(大正4)年9月

底本

  • 山の旅 大正・昭和篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年11月14日