おぜぬまのしき
尾瀬沼の四季

冒頭文

尾瀬沼は海抜五千四百九拾尺、福島県と群馬県とにわたり、東は栃木県に峰を連ね、北西は新潟県及利根水源に接している。今日もなお三十年前と同じく少しも俗化せず、真に自然の仙境である。 冬季は降雪甚しく、眼前咫尺(しせき)を弁せず、日光を見ざること五日以上に至ることも珍しからず、従って寒気甚しく、寒暖計は水銀柱が萎縮して下部のガラス球の中にその姿を没してしまうという有様である。針葉樹にありては積

文字遣い

新字新仮名

初出

「山岳 第一九年第一号」1925(大正14)年5月

底本

  • 山の旅 大正・昭和篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年11月14日