つきよのあとさき
月夜のあとさき

冒頭文

「戸隠では、蕈(きのこ)と岩魚に手打蕎麦」私がこのように手帖に書きつけたのは、善光寺の町で知人からきかされたのによる。 岩魚は戸隠山中でもそう容易には口に這入らない。岩魚釣を専門にしている、さる農家の老人をひとり知っているが、その他に所謂素人(アマチュア)で、ひそかに釣に出るような人もある。 一日歩いて骨折ってみても、まずこんなものですよと云って、石油の空缶をのぞかせて呉れたのは、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆19 秋
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年5月25日