きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面

冒頭文

八月の初旬、信濃の高原は雲の変幻の最も烈(はげ)しい時である。桔梗が原を囲(かこ)む山々の影も時あって暗く、時あって明るく、その緑の色も次第に黒みを帯びて来た。入日の雲が真紅に紫にあるいは黄色に燃えて燦爛(さんらん)の美を尽すのも今だ。この原の奇観の一つに算(かぞ)えられている大旋風の起るのもこの頃である。 曇り日の空に雲は重く、見渡すかぎり緑の色は常よりも濃く、風はやや湿っているが路草

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」博文館、1908(明治41)年8月

底本

  • 山の旅 明治・大正篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年9月17日