いそべのわかば
磯部の若葉

冒頭文

今日もまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部の若葉を音もなしに湿(ぬ)らしている。家々の湯の烟(けむり)も低く迷っている。疲れた人のような五月の空は、時々に薄く眼をあいて夏らしい光を微(かす)かに洩(もら)すかと思うと、またすぐに睡(ね)むそうにどんよりと暗くなる。雞(にわとり)が勇ましく歌っても、雀がやかましく囀(さえず)っても、上州の空は容易に夢から醒めそうもない。 「どうも困

文字遣い

新字新仮名

初出

「木太刀」1916(大正5)年7月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日