いちにちいっぴつ
一日一筆

冒頭文

一 五分間 用があって兜町(かぶとちょう)の紅葉屋(もみじや)へ行く。株式仲買店である。午前十時頃、店は掻(か)き廻されるような騒ぎで、そこらに群がる男女(なんにょ)の店員は一分間も静坐(じっと)してはいられない。電話は間断(しきり)なしにチリンチリンいうと、女は眼を嶮(けわ)しくして耳を傾ける。電報が投げ込まれると、男は飛びかかって封を切る。洋服姿の男がふらりと入って来て「郵船(ふね)は…

文字遣い

新字新仮名

初出

「木太刀」1911(明治44)年12月、1912(明治45)年1月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日