ごうもんのはなし
拷問の話

冒頭文

天保五、午年の四月十二日に播州無宿の吉五郎が江戸の町方の手に捕われて、伝馬町の牢屋へ送られた。かれは通称を定蔵といって、先年大阪で入墨の上に重敲(じゅうたた)きの仕置をうけた者で、窃盗の常習犯人である。 大阪で仕置をうけてから、かれは同じく無宿の入墨者利吉、万吉、清七、勝五郎ら十一人と連れ立って江戸へ出て来た。かれらは二、三人または三、四人ずつ幾組にも分れて、馬喰町その他に宿を取って、江

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1924(大正13)年2月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日