ちちのはか
父の墓

冒頭文

都は花落ちて、春漸く暮れなんとする四月二十日、森青く雲青く草青く、見渡すかぎり蒼茫(そうぼう)たる青山の共同墓地に入(い)りて、わか葉(ば)の扇骨木籬(かなめがき)まだ新らしく、墓標の墨の痕(あと)乾きもあえぬ父の墓前に跪(ひざまず)きぬ。父はこの月の七日(なぬか)、春雨さむき朝(あした)、逝水(せいすい)落花のあわれを示し給いて、おなじく九日の曇れる朝、季叔(すえのおじ)の墓碑と相隣れる処(とこ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1902(明治35)年6月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日