おんをかえすはなし
恩を返す話

冒頭文

寛永十四年の夏は、九州一円に近年にない旱炎(かんえん)な日が続いた。その上にまた、夏が終りに近づいた頃、来る日も来る日も、西の空に落つる夕日が真紅の色に燃え立って、人心に不安な期待を、植えつけた。 九月に入ると、肥州(ひしゅう)温泉(うんぜん)ヶ嶽(だけ)が、数日にわたって鳴動した。頂上の噴火口に投げ込まれた切支丹宗徒(きりしたんしゅうと)の怨念(おんねん)のなす業だという流言が、肥筑(

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日