はこねのやま
箱根の山

冒頭文

朝の薄ら陽があかあかと箱根街道を照らしていた。二重廻しを着た六尺豊かな親父の私は、今年六つになる三尺にも足りぬ息子一郎の手を引いて、霜柱の立ったその街道に出て行った。 昭和十八年十二月三十日、私は歳末の一両日の休みを利用して、その前日から箱根湯本のある温泉宿に泊っていた。その前日は一郎を連れ、湯本から登山電車に乗って強羅まで上り、強羅からケーブル・カーに乗って早雲山、早雲山からバスで大涌谷を通

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月

底本

  • 田中英光全集 6
  • 芳賀書店
  • 1965(昭和40)年8月14日