冒頭文

「ね、あんた、今のうち、尾久の家(うち)(親類)へでも、行っちゃったがいいと思うんだけど……」 女房のお初が、利平の枕許(まくらもと)でしきりと、口説(くど)きたてる。利平が、争議団に頭を割られてから、お初はモウスッカリ、怖気(おじけ)づいてしまっている。 「何を……馬鹿な……逃げ出すなんて、そんな……アッ、ツ、ツ」 眼をむいて、女房を怒鳴りつけようとしたが、繃帯(ほうたい)して

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 徳永直文学選集
  • 熊本出版文化会館
  • 2008(平成20)年5月15日