ちちのし
父の死

冒頭文

一 私の父は私が八歳の春に死んだ。しかも自殺して死んだ。     二 その年の春は、いつもの信州に似げない暖かい早春であつた。私共の住んでゐた上田(うへだ)の町裾を洗つてゐる千曲川(ちくまがは)の河原には、小石の間から河原蓬(かはらよもぎ)がする〳〵と芽を出し初めて、町の空を穏(おだや)かな曲線で画(くぎ)つてゐる太郎山(たらうやま)は、もう紫に煙りかけてゐた。晴れた日が幾日(い

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新思潮」1916(大正5)年2月号

底本

  • ふるさと文学館 第二四巻 【長野】
  • ぎょうせい
  • 1993(平成5)年10月15日