洞庭湖(どうていこ)の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船(あきぶね)でもあると纜(ともづな)がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然(ひょうぜん)として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の音が聞えた。船頭達は舟の片隅にうずくまって、目をつむって聴くだけで、決して仰向(あおむ)いて見るようなことをしなかった。そして、舟をゆくままに任(まか)しておくと、いつ