ほんこじ
□本居士

冒頭文

時代はよく解りませんが、僕の祖父(じい)の若い時ですから、七十年ばかり前でしょう。 大隅国加治木(おおすみのくにかじき)に長念寺(ちょうねんじ)という寺がある。其寺(そこ)に、或(ある)人が死んで葬(ほうむ)られた。生前の名は忘れました。四十九日経(た)ってから家族が墓石を建てたんです。その墓石——高サ約二尺くらいの小さな墓——に、仏名(ぶつみょう)が彫ってある、慥(たし)か四字でした。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月

底本

  • 文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2007(平成19)年7月10日