なのはなものがたり
菜の花物語

冒頭文

大和(やまと)めぐりとは畿内(きない)では名高い名所廻(めぐ)りなのだ。吉野(よしの)の花の盛りの頃を人は説くが、私は黄(き)な菜の花が殆(ほと)んど広い大和国中を彩色(さいしき)する様な、落花後の期を愛するのである、で私が大和めぐりを為(し)たのも丁度(ちょうど)この菜の花の頃であった。 浄瑠璃(じょうるり)に哀情(あいじょう)のたっぷりある盲人沢一(さわいち)お里(さと)の、夢か浮世

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月

底本

  • 文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2007(平成19)年7月10日