ろうごくのはんにち
牢獄の半日

冒頭文

一 ——一九二三年、九月一日、私は名古屋刑務所に入っていた。 監獄の昼飯は早い。十一時には、もう舌なめずりをして、きまり切って監獄の飯の少ないことを、心の底でしみじみ情けなく感じている時分だ。 私はその日の日記にこう書いている。 ——昨夜、かなり時化(しけ)た。夜中に蚊帳戸から、雨が吹き込んだので硝子戸を閉めた。朝になると、畑で秋の虫がしめた〳〵と鳴いていた。全

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸戦線 第一巻五号」1924(大正13)年10月

底本

  • 葉山嘉樹 短編小説選集
  • 郷土出版社
  • 1997(平成9)年4月15日