ふざいじぬし
不在地主

冒頭文

この一篇を、「新農民読本」として全国津々浦々の「小作人」と「貧農」に捧げる。「荒木又右衛門」や「鳴門秘帖」でも読むような積りで、仕事の合間合間に寝ころびながら読んでほしい。    一     「ドンドン、ドン」 泥壁には地図のように割目が入っていて、倚(よ)りかかると、ボロボロこぼれ落ちた。——由三は半分泣きながら、ランプのホヤを磨きにかかった。ホヤの端を掌で抑えて、ハアーと息を吹き

文字遣い

新字新仮名

初出

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

底本

  • 日本プロレタリア文学集・26 小林多喜二集(一)
  • 新日本出版社
  • 1987(昭和62)年12月25日