チェーホフのたんぺんについて
チェーホフの短篇に就いて

冒頭文

先日、カサリン・マンスフィールドの短篇集を読む機会があって大変たのしかった。崎山正毅(さきやませいき)氏の訳も立派だと思った。中でも『園遊会』などは三度くりかえして読んだが、やはり面白さに変りはなかった。これに反し、『幸福』など、繰りかえして読むのはどうかと思われるような作品もある。何かしら匂いが強すぎるのである。それは寧(むし)ろ緩(ゆる)やかな忘却作用のなかで愉(たの)しんでいたいような作品だ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1936(昭和11)年9月

底本

  • カシタンカ・ねむい 他七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2008(平成20)年5月16日