少し前の事だが、Kといふ若い法学士が夜更けて或(ある)料理屋の門を出た。酒好きな上に酒よりも好きな妓(をんな)を相手に夕方から夜半(よなか)過ぎまで立続けに呷飲(あふ)りつけたので、大分(だいぶん)酔つ払つてゐた。 街灯の灯(ひ)も点(とも)つてゐない真ツ暗がりに、Kは自分の鼻先に脊(せ)のひよろ高い男が立塞がつてゐるのを見たので、酔つ払がよくするやうにKは丁寧に帽子を取つてお辞儀をした