こねこの「トラ」
仔猫の「トラ」

冒頭文

トラ子はもみの頸輪をして、庭のいてふの樹を駈けあがりかけ下りたりしてゐる。トラ子の木のぼりは彼唯一の芸で、私たちをたのしませるために一日に一二度はやつて見せる。トラ子といふのは今年の六月生れの、ほんとうは雄猫(おすねこ)である。はじめ隣家にもらはれて来たが、そこには犬と二匹の仔豚がゐて、おさない猫の心にも怖くて落ちつかないらしく、私の家に来ては食事をねだつてゐた。物をたべさせるとそこに住みつくとい

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人朝日 第四巻第一号・新年特別号」朝日新聞社、1949(昭和24)年1月

底本

  • 燈火節
  • 月曜社
  • 2004(平成16)年11月30日