すずりととのさま
硯と殿様

冒頭文

犬養木堂(もくだう)の硯の話は、あの人の外交談や政治談よりはずつと有益だ。その硯については面白い話がある。徳川の末期に鶴笑(くわくせう)道人といふ印刻家があつた。硯の善(よ)いのを沢山持ち合せてゐたが、その一つに蓋に大雅堂(たいがだう)の筆で「天然研」と書いたのがあつた。阿波の殿様がそれを見て、自分の秘蔵の研(すゞり)七枚までも出すから、取り替ては呉れまいかとの談話(はなし)があつたが、鶴笑はなか

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻9 骨董
  • 作品社
  • 1991(平成3)年11月25日