めいじじゅうねんぜんご
明治十年前後

冒頭文

明治十年前後の小説界について、思い出すままをお話してみるが、震災のため蔵書も何も焼き払ってしまったので、詳しいことや特に年代の如きは、あまり自信をもって言うことが出来ない。このことは特にお断りして置きたい。 一体に小説という言葉は、すでに新しい言葉なので、はじめは読本(よみほん)とか草双紙(くさぞうし)とか呼ばれていたものである。が、それが改ったのは戊辰(ぼしん)の革命以後のことである。

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文学」229号、1925(大正14)年3月

底本

  • 梵雲庵雑話
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1999(平成11)年8月18日