くさつからいかほまで
草津から伊香保まで

冒頭文

高原から下りた処には、両岸から絶壁が迫つて、綺麗な谷川が流れて居た。 朝から晴れたり曇つたりして居た。時には雨も来た。日影を受けながらサツと降つて通る気まぐれな雨、谷川の橋を渡る時には、私は蝙蝠(かうもり)傘をさして居たと記憶して居る。 胸を突くやうな坂、雨と霧とに滑る山路、雑草の中には大きな山百合が俛首(うなだ)れて咲いて居た。霧の間から見えて隠れる木立の幹はあたりを何処となく深山らしく

文字遣い

新字旧仮名

初出

「読売新聞」1911(明治44)年7月23日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十七巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年7月10日