駿河の府中から遠からぬ田舎である。天正の末年で酷(ひど)い盛夏の一日であった。もう十日も前から同じような日ばかりが続いていた。その炎天の下を、ここから四、五町ばかり彼方にある街道を朝から、織田勢が幾人も幾人も続いて通る。みんな盛んに汗をかいている。その汗にほこりが付いて黒い顔がさらに黒ずんで見える。しかしこう物騒な世の中ではあるが、田の中にいて雑草を抜いたり、水車を踏んだりしている百姓は割合に落ち